ミクシィの外側の国で、あるいは「最後の物たちの国で」
これはミクシィの外側のお話です。と彼女は書いていた。
アナタはしらないかもしれませんが、この国では政府のやり方は、いつも横暴なのです。最近では、駐車違反の取り締まり法が改正されるという噂で、街中がもちきりです。駐車違反の取り締まりを民間に委託するのだというのです。彼らは、駐車違反を取り締まるためだけに訓練された駐車違反取り締まりのエリートです。ずるがしこいけど、管理もずさんだったこれまでの担当者たちとはやり方が根本的に違います。有無をいわさずフロントガラスにステッカーを貼り、車のナンバーをデジタルカメラに納めるそうです。しかも、これからは運転者ではなく車の所持者に罰金を請求することにして、徴収率100%を目指すというのです。(アナタはびっくりするかもしれませんが、これまでは「逃げ得」といって3割の対象者が罰金から逃れていたそうです。)
ちなみにこの改正によって、予測では当局の駐車違反による収入はいままでの2.5倍程度増加するそうです。増えたお金がどこにいくかは謎ですが、天下り先企業との癒着がこれまで以上に深まることは間違いないというのが、この国の市民の大方の憶測です。
それにアナタはしらないかもしれませんが、この国でパチンコが「ギャンブル」の規定からはずれているのは、警察組織のOBがパチンコ業界に天下りしているからなのだそうです。あれはあくまでもパチンコの出玉で交換した文鎮を「古物商」に売って現金に交換しているだけなのだそうです。ワタシは、いっとき誤って普通の文鎮を持っていってしまい、すごく恥ずかしい思いをしたのです。この国では、ペーパーウェイトとしての「文鎮」と、特定の古物商が高く買い取ってくれる「文鎮」の二種類が存在するのです。
ほかにもあります。アナタはしらないかもしれませんが、おなじく法改正でこれからは自転車でも無灯火や飲酒運転は罰金をとられるのだそうです。しかし「もっと世の中に横行する悪行を取り締まってくださいよ」などと生意気な口をきいてはなりません。当局の連中は生意気な口はすかさず逮捕の構えです。もし「自転車、飲酒運転で逮捕」なんていう事態に巻き込まれたら、まぬけすぎて笑えないので、今後は一切の酒気帯び自転車運転を控えねばなりません。
本当は、ほかにもまだまだあるのですが、これ以上この国の理不尽について書き続けてもあなたの気分を害すだけだろうし、実際ワタシ自身書いていて気分が悪くなってきたのです。
でも、最後にひとつだけ言わせてください。このミクシィの外側の世界では、いまでもこのような理不尽なことが(数えきれないほど数多く)巻き起こっているのです。あなたはやさしい性格なので、ワタシがこのミクシィの外側の世界で四苦八苦していることをこの手紙で知って、もしかしたらこの国にやってきてしまうかもしません。でも、お願いです。どうかミクシィの内側から出てこないでください。外の世界にはロクがなことがありません。
ワタシが、無事にミクシィにログインできたらまたメールします。
合コンでの用例:
「仕事を退職したら、ミクシィで平穏無事な老後を過ごそうかと思っているんだよね。」
そのうち仕事とか食事の出前なんかもぜーんぶミクシィできるようになることを予見して。
ポール・オースター著「最後の物たちの国で」は、帰ってこなくなってしまった兄を探しに「最後の物たちの国」に入った妹のアンナの書いた手紙という形式をとった小説です。反ユートピア小説と一言で片付けてしまえる程に、「最後の物たちの国」は絶望的な国です。具体的な政府は表面的にしか姿を表しませんが、理不尽で怠惰であり(感情のない官僚組織)、人々は他人を傷つけてでも自分が生き延びることしか考えていません。主人公は、この国でなんとかぎりぎり生き延びて、その手紙を書くことに成功しました。といっても、国から逃れでることも、書いた手紙が宛先に届くことも保証されたわけではない点からいうと、それを「成功」といってしまっっていいかは、甚だ疑問が残るところですが。
この作品の前の作品「鍵のかかった部屋」が、「部屋の中に入れない」物語だとすれば、この作品は「部屋の外に出れない」物語として読み取ることができます。(実際「鍵のかかった部屋」でファンショーを探したまま行方をくらませてしまった探偵「クィン」のパスポートを主人公が拾うシーンがあるため、ファンショーの住む「鍵のかかった部屋」の内側の物語として読むことも可能かもしれない。)
我々が、自分たちを含む「国家」や「組織」や「社会」を批判するとき、その批判に含まれるのは、その外側に出ることのできないジレンマと、枠組みの中でなんとか生き延びようとする希望に他ならないわけですが、絶望に光明を見いだすことこそが人間らしさなのだとすれば、こことは違う「最後の物たちの国」に住む住人たちは、光を見つける能力に長けた人間たちといえるかもしれません。魂の漆黒の闇に光を見いだしたい人はこちら。(まごうことなき柴田元幸訳。)
![]() | 最後の物たちの国で 著者:ポール・オースター |
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